今、様々なイベントを企画し、個性的な本を取り揃える、〈ニューウェイブ〉と呼ばれる本屋さんから目が離せない。それぞれ書店の雰囲気も、コジャレ感満載で、知的サフィスティケイト。
ここでは、ニューウェーブ書店の第一線を走るお三方と、その取り組みについてご紹介する。
時代の先端を走る
書店の新しい在り方をリリースされる森岡督行氏、ナカムラクニオ氏、笈入建志氏。いずれも経営歴15年以上のベテランだ。
『一冊の本を売る本屋』を営むことで有名な、森岡書店の森岡督行氏。オトナで高級感の溢れる銀座にその店はある。表が一面ガラス張りの見通しの良い店内には、本の幅より一回り大きいサイズ幅の長机があり、毎週変わる1冊の本が恭しく並べられる。コテ塗りの白い壁には、本と関連する絵画などが展示される。ミニマルですこぶる洗練された雰囲気。本は1冊しか選べないのではない、店主が選んだ今最も読むべき1冊の情報が手に入るのだ。こちらに足を運ぶと、究極の美を感じる。
ナカムラクニオ氏は、荻窪でブックカフェ「6次元」を構える。地図で追って訪ねると、誰しも見逃してしまうほどの看板レスな佇まい。古びた階段を2Fへと上ると、明るい日差しが降り注ぐ店内に行き着く。天井が低く、ウッディなカントリー家具で纏められた店内は、どこかノスタルジックな雰囲気で、陶器のマグカップで飲むコーヒーが旨い。村上春樹を慕う「ハルキスト」の語りべの会などでメディアにも知られ、イベントに、ゆるきゃらのふなっしーを招待した実績がある。
今人気の谷根千地帯で、往来堂書店の店長を務めながら、「不忍ブックストリート 一箱古本市」を立ち上げる笈入建志氏。普段は千駄木に溶け込んだ商店街の本屋さんを営むが、その古本市のアイデアは斬新だ。フリーマーケットのような形式で、不忍通りの民家の軒先に仮そめの露店を展開させる。ビニールシートを敷いて、一箱に想いを詰めた古本を売る人々は、全国各地から集まったものたちだ。その幾多もの個人書店の数のぶんだけ、ロマンがありユーモアがある。散歩しながら眺めるのもよし、言葉を交わすのもよし。開催期間は、映画上映やライヴなども行われるなど、地域の活性化となっている。
本のセレクト
心をときめかせる新時代の書店は、元々は古本屋さんが発祥であったようだ。また、暮らしや芸術、思想を取り扱うところが多い。とっておきの自分だけの本が見つかる、出版界のセレクトショップさながらである。
「手に取っただけでヤバイ!」と唸らせ、心が躍る本を店頭に並べるためには、どのような工夫が必要なのだろう。意外にも、森岡氏とナカムラ氏が口を揃えてこう主張する。
「過去に来店された10人くらいのお客様を具体的にイメージして、気に入りそうなものをピックアップしています。」
書店を訪れる客の中には、自分が求める分野や作家だけを目当てにするというよりも、何がイマ買いで良い本なのか、この店は何が売りなのかといった、時代の流行に対して鋭敏に神経を尖らせてやってくる者もいる。
また、最近のペットブームで、メジャーな犬や猫ではなく、小鳥ファンも居て、そうしたニッチ向けにも十分対応する。
1日あたり200点をも出版する新刊の旺盛なシステムは、逆に言えば、わざわざ売れない本を作っているようなもの。新書も古本も知り尽くした専門家の彼らは、現場の生々しい匂いを嗅ぐ臨床医のようだ。個々のコミュニーケーションが基盤となり、市場ニーズを嗅ぎ取っていく。
イベント企画と海外とのつながり
銀座で海外からのインバウンドの顧客が多いという森岡氏は、一時代前に謳歌した「ブックカフェ」では、本が売れなくなってきたという。確かに最近、酒が飲める本屋さんは点在するものの、それはあくまで、店内で過ごすためのオプション。飲食物を提供するカフェではなく、あくまで本屋であり続けるためには、集客のためのイベント開催等が必要である。
ニューウェイブ− 新しい波、全国的にこの手の書店は展開しているが、
本屋というのは、地域とその物件にアジェストするものでなくてはならないという。
東京で売れなかった古本をある地方に持って行き、無人で販売したところ、飛ぶように売れた。いわゆる「無人書店」とは、本と金銭投入用箱が設置されただけの簡易な書店である。
また、近頃は中央線を訪れる外国人旅行者が多い。アニメ文化を求めて中野ブロードウェイへ降り立ち、更に、日本人のコアな文化を探るため、高円寺、荻窪、西荻窪などの古本屋を訪ねる。
世界的に名高いハルキ文学を伝承するナカムラ氏の6次元は、まさにそうした書店であり、海外からの問い合わせが後を立たない。
海外客を取り入れた書店は、諸外国での書籍の販売方法についても貪欲だ。
「南米では、本を贈答品のように豪華なラッピングを行い、韓国(ソウル)では、フードコートのような巨大な本屋さんがあって、花屋があり、ぬりえコーナーがありとても賑やか。パリでは、新刊と古本を棚の表裏で一緒に陳列するんだ。傍ら、営業中にも関わらずワインパーティーをやっていたりする」とナカムラ氏は説く。
日本の一般書店については、学問に興味のあるものが立ち寄る場所のように思えるが、諸外国ではもっと、デイリープロダクツとして本を扱う場所のように本屋が存在しているということであろうか。
聡明で企画力のあるナカムラクニオ氏のアイデアは尽きない。
「山形ビエンナーレ2016では、小説家が即興で作成した本を、その場でライヴ的に売り出します」また、来場者に興味を持ってもらう目的で、実際に小説を書くワークショップを行うという。書く体験させることで、本マニアを増殖させる狙いだ。
まとめ
尚も進化し続けるニューウェイブ書店、単なるブックストアとして在るのではなく、常にアクティブに変化を求めている。そこには伝統の古書店で培われた情報収集力を糧する背景があるようだ。本で生活を豊かにする。あなたも自分だけの素敵な本を見つけに訪れてみるのはいかがだろうか。